あんなことがあった翌週、マリーはいつもの時間に外へ出ることができなかった。

 初めて両親以外から受けた愛に戸惑ったからだ。

 けれど、彼から向けられた愛の言葉が、身内から寄せられるものとはまったく違う意味を持っているということを、マリーはわかっていた。

 いつだったか、ウィルが貸してくれた小説で知った、他人同士である男女の恋愛感情。

 マリー自身がそれとは無縁のものなのだと、幼少より刷り込まれていたはずだったのに。

 頭から離れないウィルの声に、胸はきゅんきゅんと苦しく啼いてばかりだ。


「さあマリー、フレイザー様へご挨拶だ」


 頬にともった火照りを払いのけるかのように、両親が意気揚々とアンダーソン邸内を先導していく。

 ピンと背筋を伸ばしたふたりの背中を一瞥し、思わず吐き出す溜め息をうつむいて誤魔化した。



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