熱を持った頬が、ざらざらとした革の胸当てに押し付けられる。


「ウィル……?」


 今までにない距離感はマリーを戸惑わせ、そこにさらなる追い打ちがかけられる。


「社会勉強だなんて……よく言えた口だな、俺は。
 俺以外の誰も見ないように仕向けているだけなのに」

「……え……?」


 抱き寄せられたマリーの背中に、たくましさを感じる腕が回される。

 父に抱きしめられるときとは違う男性の力強さ。

 それまで知らなかった強さを全身で受けると、胸は途端にきゅうと締めつけられ、身体が熱く震え出した。


「マリーアンジュ……」


 呟いた声音が降ってきて、優しい口づけが金色の髪の頭頂部に落とされた。

 ひくりと肩を揺らすマリーは、乱れる鼓動を抑えるように小さな掌を胸に当てた。


「きっと、心を奪われるような煌びやかな世界が、君を待っていると思う」


 いつものように、ウィルはマリーの好奇心を煽る。


「でも、そんな中に足を踏み入れたとしても、俺のことを心の隅に置いていてくれないか」