王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 そう思うマリーの目の前には、サファイアの瞳を携えるウィルの優しい笑顔。

 見つめられて、ほんの少し胸が苦しさを感じる。

 四年前、初めて彼を目にしたときのあの怖いような感覚を思い出した。

 でも、あのときとは少し違う何かを感じる。

 その原因を知りたいと思うのに、そこに触れてしまってはいけないような不思議な気持ちだ。

 エメラルドの瞳を震えさせるマリーを、ウィルはじっと見つめ返してきた。


「マリー」

「うん?」


 呼びかけられて首をかしげる彼女の頬に、温かな掌がそっと触れる。

 これまでにも幾度か、ウィルは髪に触れてきたことがある。

 それはいつだって、マリーを見守るようなおおらかな空気だった。

 だけど、今じかに頬に触れてくる温かさ。

 いつもと少し違う雰囲気をマリーは感じ取り、鼓動が急かされた。


「俺はもうすぐ、二十歳を迎える。
 そうしたら君に、話したいことがあるんだ」


 頬から頭の後ろへと回り込んだ掌に、突然ぐっと抱き寄せられた。