王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「お母様が言うように、フレイザー様は素敵な方かもしれないわ。
 でも、……私は、ちゃんと自分の心が想う方と、寄り添い合いたい」


 自分が誰を想うようになるのか、マリーには見当がつかない。

 そもそも、恋愛がどういうものなのかも知らない。

 ウィルが教えてくれた、『大切』だと思える相手が、マリーの前に現れるのかどうかもわからない。

 だけど、親から言いつけられた人が、そうなる相手だとは限らないことは、本能が察していた。


「マリーには、そんな相手がいるのか?」

「え……?」


 自分でもまだ未知の部分に、青い瞳が性急するように手を伸ばしてくる。

 瞳の奥をかすかに揺らし、ウィルが金色の髪をそっと撫でた。


「私は……」

「もしまだ見つけられないのなら、今回は社会勉強だと思えばいい」

「社会勉強……?」


 重責に押し潰されそうだった心が、ウィルによってその重みをふっと退かされたのを感じた。