「まさか、あんなに幼かったマリーアンジュが、自分で自分の幸せを見つけられるとは思わなかったよ」


 父は潤んだ瞳で遠い記憶を見ているようだ。

 マリーもそれに感化されるように、幼い頃父に抱き上げられたことを思い出した。

 今はもう、歳を重ねた父に簡単に抱えられるような幼子ではない。


「そうか、心から愛する人を見つけられるようなレディになったのか……」


 噛み締めるように呟いた父の瞳を見て、なぜかマリーは胸が切なく苦しくなった。


「そんなお前が初めて語ってくれた本心を、ないがしろにするはずなどないよ」

「お父様……それでは……」

「ああ、もちろん、認めないわけにはいかないだろう」

「お父様……!」


 ぱっと表情に花を咲かせたマリーは、咄嗟にウィルに振り向く。

 震えるほどの感動を伝える間もなく、立ち上がったサファイアの柔らかな瞳は同じ思いをそこに抱えているとわかった。



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