王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「フレイザー様がどんな方なのか、私ちっとも知らないの。お母様は地位も名誉も持った素晴らしい方だとおっしゃっていたけれど……」


 自分の役目はわかっている。

 イベール家の繁栄のため、名家に嫁ぐことを幼少のころから当然のことだと教え込まれてきたから。


「自分の倍ほども年の離れた方と、どう接すればいいのか……」


 心の重みを吐き出すように口にしたけれど、軽くはならない。

 それはマリーの本心ではなかったからだ。


「ううん、違うわ。そうじゃない。
 私は、見ず知らずの方の元へ嫁ぎたいなんて思っていないの」


 隣に座るウィルにだけは、本当の気持ちを打ち明けられた。

 もしかしたら、彼なら自分の重い心を軽くしてくれる術を知っているかもしれないと思った。

 マリーはすがるように隣を見上げ、青い瞳の中に答えを求めた。

 前に、ウィルが教えてくれた。世の中には恋愛というものがあること。

 自分が大切に想う人と寄り添い合うことこそが、本当の幸せなのだと。