王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

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 二週間後の社交パーティーへ向けて、マリーは家庭教師からより一層熱のこもった指導を受けた。

 初めての場であることから、一から叩き直されたのは、テーブルマナーやダンスの練習、淑女としての立ち振る舞いや言葉遣いに至るまで。

 家庭教師による厳しい指導にマリーは辟易していた。

 そんな中、母がいつものサロンへと出かけて行った日の午後。

 週に一度の楽しい時間を迎えたのに、裏庭に出るマリーのその表情は浮かない。


「マリー?」


 陽が少し傾きかけたいつもの時間、裏庭の隅で膝を抱えて座り込むマリー。

 春風にそよぐシロツメクサの白い小毬をぼんやりと眺めていたマリーに、緑の生垣の隙間から顔を覗かせたウィルが不思議そうに声をかけてきた。


「ウィル……」


 顔を上げ答えたマリーの声は、先週の弾けるような明るさは微塵も見当たらない。

 心配そうな顔をしたウィルは、生垣を潜ってマリーのそばに腰を下ろした。


「元気がないように見えるけれど、どうしたんだ?」

「それが……」


 深い溜め息を吐いてから、マリーはウィルに社交パーティーのことを話した。