王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 ――『確かに、爵位は無償で配られているわけじゃない。領地の広さやそこを統治する力、繁栄力なんかも下賜のための評価に影響する。
 両家の繁栄のために政略的な結婚をするのも、昔からの風習としてはあり得ることだと思うよ。
 ……けれど、当人同士の気持ちも、俺は蔑ろにされるべきではないと思ってる』


 ウィルが教えてくれたのは、慣習的なものよりも個人の幸せを鑑みた方が、長い目で豊かさを保てるという考えだ。

 マリーにとって、それは目から鱗の話だった。

 勢力の大きな高爵位の家柄と結びつきができれば、その家は未来永劫安泰だと両親にも家庭教師にも教わってきたからだ。


「マリーアンジュ?」


 あの青いサファイアの瞳を思い出していたマリーは、母の呼びかけにはっとして顔を上げた。