「ウィル……ッ!!」


 次に悪魔の形相のフレイザーを見たのは、彼のそばで剣同士が激しい音でぶつかったときだった。

 くっ、と言葉を食いしばるウィルが、目の前でフレイザーの剣に重圧をかけられる。

 見るたびに怖さを感じていた暗黒の瞳は、今は更なる闇とおぞましい殺意を発していた。


「フレイザー様! おやめください!!」


 震えるマリーが制しようとしても、ウィルが細い刃の根元で受けた重厚な剣の重さは退かされない。

 ギリギリと圧倒的な力で押されるウィル。


「お兄様……ッ、お話が、お話が違います……!!」


 フレイザーの向こうから、「やめて」と泣き崩れるエルノアの悲鳴のような声が聴こえた。

 なぜフレイザーがウィルの命を狙うようなことをするのか。

 こんなところで王太子に手をかければ、言い訳の効かない罪は免れることはできないはずなのに。


「わたくしが、フレイザー様との結婚を遂げればよいのですか……?」


 マリーは、従来通りに話を進めていれば、フレイザーを怒らせることはなかったのかもしれないと思った。


「それなら、私は大人しく従います。だから、剣を下げてくださいませ……」


 懇願するように訴えかけると、それに答えてきたのはウィルだった。