学舎でウィルを見たとき、彼の剣の乱舞はとても華麗だった。

 あんなに軽い身のこなしで相手の剣を弾くほどの彼でも、この状況は分が悪いと感じたのだろう。


「マリーアンジュ。王太子殿下に心を奪われてしまったばかりに、決して結ばれない悲恋を味わうことになろうとは、可哀そうな娘だ。
 大人しく人形のように私との婚約を進めていれば、哀しい思いをせずにすんだものを」


 マリーだって、哀しい思いなどしたくはないに決まっている。

 けれど、だからと言って、ウィルに恋をしたことまでもなかったことになんてしたくはない。

 彼への気持ちを自覚できたからこそ、マリーはそこに本当の幸せを感じられたのだから。


「マリー、早く」

「貴方を置いて自分だけ逃げるなんてできない」


 マリーはフレイザーを見据えるウィルへ、エメラルドの眼差しを強く送る。

 決してウィルの力を信じていないわけじゃない。

 だけど、ウィルのそばから離れたくはなかった。


「そうか、そんなに殿下と運命を共にしたいのであれば、この剣でおふたり仲良く貫かれて……逝けばいい」


 暗黒の瞳が、慈悲など見せずに細められた瞬間、フレイザーはふたりめがけて剣を振り上げ突っ込んできた。