ウィルは目の前の悪しき男から目を逸らさず、静かにマリーに言った。


「廊下の突き当たりから階下へ降りられる。そうしたら、ミケルの元へ行くんだ」


 どういうことなのか戸惑ったけれど、すぐにそれがマリーをここから遠ざけるための指示なのだとわかった。


「でもっ、ウィルは……!?」


 フレイザーのものよりも軽い音で抜かれた細い剣は、今日の式典のためのお飾りだ。

 それでも応戦すべく腰を落として剣を構えたウィルは、皮肉な笑みを浮かべた。


「こんな玩具しかないけれど、君だけは必ず守る」

「そんな……っ」


 たしかにウィルの言うように、彼が手にした剣は玩具のようだ。

 対するフレイザーの持つ剣は重厚な作りをしている。

 これでは、切りかかってきた相手を払うことにすら耐えきれないかもしれない。