「お兄様……?」

「しかたがない、エルノア。おふたりは身分の差に嘆き、ここで心中なさるそうだ」

「何を、おっしゃって……」


 フレイザーは腰を抜かしたエルノアを放って、切っ先をウィルとマリーに向ける。

 さっと血の気が引いたのはエルノアだけではない。

 ウィルの腕の中にいるマリーもまた、生まれて初めて向けられた剣の意味に、眩暈がするほどの恐怖を覚えた。

 マリーの怖さを感じ取るウィルは、フレイザーから少しでも遠ざけようとその身を自分の後ろに隠した。


「残念です。王太子殿下には、国の繁栄に努め、バークレー国の輝かしい未来を担っていただくはずだったのに。
 しかし、ご心配には及ばない。
 今後は、このフレイザー・アンダーソンがその遺志を継ぐものとして、バークレー国の国政を預かることになりましょう」


 フレイザーがじりとにじり寄ると、ウィルはマリーを庇いながらわずかに片足を下げる。

 マリーには指一本触れさせないようにと片腕は広げられ、反対の手を腰元の剣に添えた。