「どうした、エルノア」

「お、兄様……っ」


 女性と闇に消えたはずのフレイザーは、眩暈を起こすエルノアを廊下の端に座らせる。


「これから夜の楽しみに向かうところで、伝達を寄越すとは。まったく困った妹だ」

「だって……ウィリアム、が……」


 弱々しいエルノアの声に、片膝をついていたフレイザーは鋭い視線をマリー達の方へと向けてきた。


「ああ、どうやら、殿下はあまり聞き分けがよろしくないようだ」


 いつもの嘲笑のような目つきとは違い、フレイザーは明らかに不機嫌を醸しながらゆっくりと立ち上がった。

 足を踏み出しこちらに迫りながら、フレイザーが手をかけたのは腰に携えている剣だ。

 金属が擦れ重厚な音を立てて抜かれるそれは、城内の照明を受けて妖しくぎらりと光る。