王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 両親のかねてからの願いは、バークレー国でも爵位の最上位にあるアンダーソン家への娘の嫁入りだった。

 アンダーソン家の長男フレイザーは、マリーの倍ほども年の離れた紳士だと聞く。

 彼がそろそろ身を固め、本格的に嫁候補を探し始めたのは、奇しくもマリーが社交界デビューを控えたこの春のことだった。


「来月の初めにアンダーソン邸にて開かれるそうよ。
 マリー、わかっているわね? 絶対にこの機会をものにするのよ」


 母からの期待は、口にされずとも痛いほど理解していた。

 大公爵家へ娘が嫁いだとなれば、イベール家の名前にも箔が付くというもの。

 名誉と沽券がなによりも重視される貴族という家系に生まれたマリーは、この世に生を受ける前から上位階級へと嫁ぐことが求められていたのだ。

 父や母の教えから、そうでなければならないのだと、マリー自身も信じて疑わなかった。

 けれど、その教えが貴族の間だけの見栄の張合いなのだと知ったのは、彼に出逢ってからだ。