王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

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「手を振るったわりに、ずいぶんと大人しく従うのだな」


 周囲からの嫉妬と羨望を背に受けながら、マリーがフレイザーとともに出てきたのは、大広間から望める中庭だ。

 星の煌めきを遮るように暗黒の瞳に覗き込まれるも、その暗さに怖じ気づくことなくエメラルドの眼差しは逸らさない。


「これまで私を大切に育ててくれた両親への孝行のためです。
 それに……王太子殿下には、国を守るという責務がおありです。殿下には、幸せになっていただきたいから」

「ふん、健気なことだ」


 大広間では楽隊による優雅な音楽が奏でられ、ダンスが始まった。

 その中では、ウィルとエルノアも手を取り合っているのだろうか。

 視界の端に人だかりを捉えるものの彼の姿は見えず、それでもマリーは、彼の心も自分の心も決して疑わないと固く決意をしていた。