王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 マリーを庇っているかのような言い草だが、エルノアの目元は嘲笑に細められている。

 彼女は、マリーをウィルの元から遠ざけようとしたのだろう。


「ああ、それもそうだな。
 さあマリーアンジュ、ふたりで話せるところへ行こう」


 彼女の思惑を汲んだらしいフレイザーは、マリーの背に手を回しその場から立ち去ろうとした。


「エルノア、手を離してくれ」


 離れ行こうとするマリーの背中を見つめるウィルは、擦り寄るエルノアを静かに拒む。


「俺がそばに置きたいと思う女性は、この世でたったひとりだけだ」


 フレイザーに促されるままにその場を離れようとしたマリーは、ウィルの凛とした声音にはたと振り返った。