王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 ……とても大切な貴方。

 私のせいで、貴方の尊厳を脅かすようなことはしたくない。


 ウィルへ向けて、自分はフレイザーにどう振る舞われようと大丈夫であることを眼差しに込める。

 なにか言いたげなウィルとの間に、突然、豪奢なドレスを纏った女性が割り入ってきた。


「お兄様、女心をわかっていませんわ。
 こんな大勢の目の前で口づけなど、そういうことはふたりきりのときになさいませ?
 ねえ? マリーアンジュお義姉様」


 やって来たのはエルノアだ。


「年下なのに“お義姉様”だなんてだいぶ違和感がありますけれど、これからは仲良くいたしましょう?」


 エルノアは上品に笑うと、ウィルのそばに付き、彼の腕にそっと寄り添った。

 覚悟を決めていたはずのマリーの心は、たちまちのうちに強がりが剥離していく。

 どうにもならないこととはいえ、目の当たりにすると心は痛みに咽ぶ。