王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 周囲の声を拾うフレイザーは、目の前のウィルとマリーにしか聞こえない声で低く嘲笑った。


「他者のフィアンセを横取りしようとする次期国王に、国民は果たしてついてきてくれるかな?」


 その言葉で、フレイザーの行為が全て意図的だったとマリーにはわかった。

 フレイザーはウィルの気持ちを逆撫でし、公の場で彼の体裁を崩すように仕向けたのだ。

 マリーを庇おうとしたウィルの行動が、逆に彼の印象を悪くしてしまっている。

 彼の体裁を守るためには、自分が大人しくフレイザーに従うことしかないとマリーは思った。


「ウィリアム殿下」


 マリーはそっとフレイザーの腕を制して姿勢を正すと、淑女らしく凛とした表情でウィルを見据えた。


「お見苦しいところを晒してしまい、申し訳ございません」


 すぐそばにいるのに、とても気高く遠い存在のウィル。

 マリーは軽く膝を折り姿勢を下げてから、エメラルドの瞳をやんわりと細めた。