王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 フレイザーはニヤリと口の端を釣り上げて、衝撃のあまりに涙を滲ませるマリーに頬擦りをしてみせる。


「ああ申し訳ない、殿下。あまりにも私のフィアンセが可愛いもので、貴方様への嫉妬が抑えられなくなってしまったよ」


 フレイザーの行動に気づいた人々が、あちこちで浮わついた声を漏らす。


「令嬢から離れろ」


 奥歯で怒りを噛みしめるように唸るウィル。


「どうなさったのだ、まるで自分のもののような言い草ではありませんか。
 もしや、ウィリアム殿下。マリーアンジュの美しさに惚れ、私から奪おうとでもお考えかな?」


 ニヤつくフレイザーは、ウィルにありもしない嫌疑をかけようとする。

 騒ぎに気づいた人達がフレイザーの言葉に反応した。


「王太子がフレイザー様のフィアンセを?」

「噂の通り傍若無人の暴君だったか」

「たしか今日は、王太子殿下のフィアンセが発表されるという噂もあったが、破棄でもするおつもりなのか?」


 周囲からはひそひそとウィルへの悪評が聴こえてくる。