目の前でウィルの表情が強張る。

　目に見える彼の嫉妬に罪悪感を覚え、せめて少しでもとフレイザーから距離を取ろうと顔を背けた。

　そんなマリーの抵抗など意に介さないフレイザーは、彼女の顎を掬うように生温い指で撫で上げる。

　そして、瞬く間もなく、小さなその赤い口唇を奪った。


「……ッ!!!!」


　ウィルが言葉にならない声を発すると同時に、マリーの華奢な掌がフレイザーの頬を叩きつけた。

　辛辣な乾いた音が広間に舞う。

　周囲の目が一気に玉座の方へと集まった。


「何をなさるのですか……っ!!」


　生ぬるい感触の残る口唇を押さえ、マリーは震える声で叫んだ。


「令嬢の気持ちも考えたらどうだ、フレイザー!!」


　ウィルもまた、大切なマリーにやすやすと触れたフレイザーに、激しい怒りを噴き出している。

　精一杯に怒りを抑えるものの、握る拳は今にもフレイザーへと飛んでいかんとばかりに震え、瞳孔までも見開いたウィルの眼は、フレイザーへの怒りで真っ赤に血走った。