せめて彼の前では毅然とした淑女でいたいと、ドレスをつまみ姿勢を下げる。


「こ、のたびは、ご成人とご婚約、誠に……」

「マリーアンジュ」


 絞り出すように祝辞を述べかけたマリーを、ウィルがそっと制した。

 顔を上げると、ウィルはサファイアの瞳を優しく細め、柔らかな微笑みでマリーの心を捕まえた。

 それ以上は何も言わなくてもいいと諭されているようで、辛く痛みを伴っていた胸にときめきがほとばしった。

 やはりウィルを想い慕う心は、たとえそれが本心ではなくとも祝いの言葉を告げるのには抵抗があったから。

 ウィルはマリーの心をすべて感じ取ってくれたのかもしれない。

 些細なことで幸福を感じながら、それ以上の言葉を続けられずにいると、隣に立つフレイザーがマリーを乱暴に抱き寄せた。


「そんなに見つめ合われていては、いくら寛大な私でも嫉妬せざるをえませんな」


 油断していた足がふらつき、マリーは思いがけずフレイザーの胸に飛び込む形になってしまった。