「そうか」


 淡々としたウィルの返事に、マリーは少なからず胸を痛める。

 もしかしたらこの場でそれを阻止しようとしてくれるのではないかと、期待をしていたことに気がついた。


「殿下も本日、婚約の発表をなさるとおうかがいしましたが?」


 フレイザーの衝撃的な言葉に、胸がずきりとした音を立てる。

 ウィルの婚約相手といえば、エルノアで間違いないだろう。

 同じく婚約が決まったらしいウィルに、マリーはそれを嫌だと思う権利などはない。

 頭ではわかっていることなのに、心がなかなか追いつけないまま哀しみが襲ってくる。


「ああ、その予定だ」


 そして、それすらも否定しなかったウィルの言葉に、眩暈がしそうになる。

 けれど、マリーは自分の宿命と現実を受け入れなければと口唇を噛んだ。

 ウィルに触れてもらった柔らかな感触を思い出し、それを糧に心を強く奮い立たせる。

 彼には、充分すぎるほどの幸福をもらった。

 ちゃんと自分の想いも伝えた。

 それ以上の何を望むことがあるだろうかと、聞きわけのないような幼い我が侭は抑え込んだ。