わざわざ訊ねたフレイザーの嫌らしさは、ここが王族の城であろうと健在だ。

 返事をしないままのマリーの背に掌をあて、フレイザーはエスコートするように玉座のほうへと歩み出した。

 フレイザーと並ぶ自分を、ウィルの瞳に映したくはないのに。

 エルノアに嫉妬を覚えたように、彼にも同じ思いをさせてしまうかもしれなかった。


「王太子殿下、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。本日は無事に成人を迎えられましたこと、誠におめでとうございます」


 玉座につくウィルの前で、マリーは俯いたままフレイザーの挨拶を聞く。

 ただの当てつけでしかないこの場から、早く離れたいと罪悪感に苛まれるマリーの肩を、フレイザーは乱暴に引き寄せた。


「この度、婚約することになりましたこと、この場を借りてご報告させていただきます、殿下」


 いずれは伝わるであろうことを告げられ、マリーは俯いた瞳を潤ませドレスのレースをぎゅっと握りしめた。