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「ウィリアム王太子が、あんなに美麗なお方だったなんてね」

「今までの噂は噂でしかなかったのね」


 式典のあとの晩餐会は、王宮の大広間で開かれている。

 玉座に鎮座する王太子を見やっては、貴婦人たちは溜め息を漏らしている。

 女性の視線を一手に引き受けるウィルを、マリーもまた周囲に紛れてちらちらと盗み見ていた。

 遠い存在。

 今は目の合わない彼の元へ、マリーの心は飛んで行きたがっていた。

 いくら鎮めようと思っていても、愛しい人を目の前にすると自分では抑止できない感情があるのだと、マリーは初めて知った。


「殿下にご挨拶に参りましょうか、マリーアンジュ」


 隣に立つフレイザーは、どこかの紳士と話を終えてからマリーに呼びかけた。

 ニヤつく表情からは、マリーがウィルを気にしているのをわかっていて、あえてそう言っているのだと読み取れる。

 まさかマリーが、それに従わないなどとあるわけがないとわかっている顔だ。