マリーも周りと同じように手を叩く。

 そのとき、遥か彼方に見えるサファイアの瞳が、マリーを捉えた。

 先日学舎の前で遭遇したときのように、マリーの心臓は全力で鼓動を叩く。

 胸が破けてしまいそうな音を自分の中に聴いたかと思うと、ウィルはマリーに向けてやんわりと目を細めて見せた。

 その微笑みはマリーが知っているものだった。

 周りにはたくさんの人がいるのにもかかわらず、それが自分に向けられたものだとわかるくらいに、いつも通りの彼だ。

 心を固く鎮めていたはずなのに、彼によってこじ開けられた胸の奥底から、彼への想いが熱を帯びて噴き出してくる。

 彼の姿を映す視界は、見えなくなるのがもったないほどに潤みを帯びていく。

 表情を殺していた頬はたちまちのうちに真っ赤に上気した。

 彼の微笑みがまさかマリーひとりに向けられたものだとは、周囲の人々にわかるはずがない。

 そうだと確信できるくらいに、マリーはウィルと心で繋がっていると感じられた。

 たとえ勘違いであったとしても、このまま彼とは離れてしまっても、マリーはもうそれだけで生きていける気がした。



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