「ウィル、私ね……貴方に伝えたいことがあったの。
 こんな言い方をすると、貴方はきっと哀しむかもしれないけれど、いち令嬢として王太子様に愛されるなんて凄く光栄なことだわ」

「マリー、俺は……」

「わかってる、私は“ウィリアム王太子”に愛されたことを喜んでるんじゃないの。“ウィル”に愛されたことが嬉しくてしかたない」


 一番大切な彼と最後に叶えることができた夢が、たしかに胸に刻まれる。

 それを宝物にして生きていこうという決意が、マリーを一歩淑女へと成長させる。


「ウィル……私も、貴方を愛しています」


 星の煌めきを取り込んだ綺麗な瞳が、大きく見開かれる。


「大好きよ、ウィル。こんな気持ちを教えてくれたのが貴方で、私とても幸せだわ」

「マリー」


 二頭の馬の足音と、木々を撫ぜる風の音だけがふたりを包む。

 エメラルドの瞳から大切な想いを真っ直ぐに送ると、ウィルは破顔し受け取ってくれた。


「俺も、愛している。君以外愛せないよマリー、これまでも、これからも」


 もったいないほどの言葉が、マリーの胸を窮屈に締め上げる。

 胸に収まりきらない彼への想いは、再び重ねられる口唇を伝って、彼のものと交じり合わせる。

 今この瞬間の最高に幸せなひとときと、溢れ出す感情をかき集めて、マリーは取り零しのないよう胸の奥深くに刻みつけた。




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