抑えきれない鼓動に人生最高の幸福を感じていると、後方から駆ける馬の蹄の音が迫ってきた。

 慌ただしい様子に振り向いた三人。

 暗がりの中、馬に乗っていたのが騎士だとわかったのは、三人を囲む明かりの近くに来てから。

 王家の紋章を胸に掲げた一人の男性が、ミケルに気づき慌てて馬を引き止めた。


「団長!」

「どうした、何かあったか」


 優しげな雰囲気だったミケルが団長と呼ばれ、途端に威厳を醸した様子にマリーは驚いた。


「は! イベール伯爵家の令嬢が居なくなったと通報があり、まずは状況を聴き取りに屋敷へと向かっていたところでありますが……」


 話をしていた彼が、目を丸くするマリーの方へと振り向いてきた。

 マリーだけを目に留め、ウィルには頭を下げる様子もないところを見ると、騎士の彼はウィルの素性を知らないようだ。

 ウィルが王太子である事実を知っているのはごく一部の人間だけなのだと察し、自分は少しだけ特別なのかもしれないと頬がこそばゆくなる。