まるで最後にひとつだけ願いを叶えてもらっているよう。

 一緒に満天の星を見ることを、ウィルは約束してくれたから。


「ウィル、星が綺麗……」

「ああ、そうだね。今夜は新月で星たちが目一杯輝けるときだからな」

「今が最高の瞬間なのね」

「ああ」


 もしかしたら、それは自分も同じなのかもしれないとマリーは思った。

 今この瞬間が、マリーの人生の中で一番煌めくひとときを過ごしているかもしれなかった。


「ねぇウィル? 星座ってどれなの?」

「そうだな、一番わかりやすいのは北の空だな。ほら向こうに橙色に光る大きい星があるだろう? そこから目立つ星が“W”の形に並んでいるのがわかる?」

「ええ、わかるわ」

「あれがカシオペア座。ギリシア神話に出てくる王妃の名前で……」


 長い指の先を辿り、心地好い声音に耳を傾けながら、無数の星達へと心を飛ばす。


 この先の未来、こんなに胸を高鳴らせる瞬間なんて、もうない気がする……。


 目に映るこの壮大な美しさと、今感じている温かな体温を忘れてしまわないようにと、しっかり心に刻み込む。

 ふと視線を感じてわずかに目を横に滑らせる。

 すると、星の煌めきと見まごうほどの美しい瞳がマリーを見つめていて、その瞳を傾けながら、高貴な彼がまた甘い口づけをくれた。