「ええ、わかっているわ……ウィルにも、事情があってのことだったのでしょう?」

「身分を明かさないことが、成人するまでの掟だった。身の安全のために」

「この国の未来を担う身ですもの、仕方のないことだわ。ウィルが謝ることなんて何もない」


 マリーが優しく微笑み返すと、ウィルは小さな口唇の中に彼女の名をそっと吹き込んだ。

 三度目になる口づけは、それまでのどれよりも彼を近く感じた。

 ミケルからはふたりの様子は見えない。

 それをいいことに、ウィルはマリーから目を離すことなく、味わうように口唇を啄む。

 馬の揺れなのか、彼の熱量のせいなのか、火照る身体に頭がのぼせるようだ。


「ウィ、ル……」


 火照る吐息の合間に呼びかけると、ウィルはマリーをより一層強く抱き寄せた。

 彼のたくましい肩の向こうに、夜に変わった空が見える。

 そこには、あの日窓枠の中を埋め尽くしていた無数の星が、空いっぱいに広がっていた。