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 温かさに揺られるマリーの耳に、ぼんやりと聴こえるのは馬の足音。

 頬にあたる革の胸当ての奥から、ウィルの鼓動が伝わってくる。

 二人乗りの鞍をつけた馬に、マリーはウィルとともに乗っていた。

 夕陽の名残りに赤々としていた街を出てからしばらく、辺りはすっかり闇に落ちてしまった。

 先を行くミケルのランプだけが道しるべの中、ウィルの温かな腕に抱かれて儚いひとときを噛み締める。

 誰も何も言わない時間を久方ぶりに割ったのは、ウィルの優しくも切なげな声音だった。


「マリー、すまない。俺は君をだますつもりも、信用していなかったわけでもないから」


 ウィルは沈黙の間、ずっとそのことを省みていたのか。

 彼の鼓動が聴こえていた胸当てから顔を上げる。

 ランプの明かりに浮かぶ美しい瞳。

 ウィルの身分を知ったマリーが、今までどおりに接してくれるかどうかわからないという不安が降り注いでくる。