マリーとウィルには目をくれることもなく、自分たちの思いのままに事が運ぶことを喜ぶ兄妹。

 数日後に王宮で開かれる祝賀パーティーの際、フレイザーはマリーを迎えに来るだろう。

 そこでイベール家がマリーを引き渡せば、事実上婚約を承諾したとみなされる。
 
 そして、マリーの両親がそれを拒否する理由など、あるわけはなかった。


「貴様の好きにはさせん」


 マリーに対する口調とは違い、威嚇を込めたウィルの言い方には怖さを感じる。

 けれど、フレイザーとの婚約を望まないことを口にしていなくても、マリーの気持ちを察しているような反発を頼もしく思った。


「私の好きにしているわけではないさ。これは周りが望んでいることだ。
 悔しければ早く成人の儀を終えることだな。今のお前には一切の権限などありはしないのだから」
 

 それでもフレイザーは、王太子であるウィルを恐れることなく、今はまだ何の権力も持っていない彼の立場を知らしめる。
 
 彼らの背中を呆然と見送るマリーは、ウィルの腕の中で、未来を真っ黒に塗り潰されていくような絶望を感じていた。




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