耳を疑うフレイザーの言葉に、マリーは頭が真っ白になる。

 それと同時に、マリーを抱えたウィルもまた、はたと足を止めてしまった。

 正式な婚約相手としての指名をされたことが何を意味するのか、マリーもウィルも納得せずとも理解した。


「せいぜい今宵は最後の逢瀬を楽しむといい」

「そんなっ、お兄様!」


 今夜はウィルにマリーを送らせることを暗に了承したフレイザーは、食い下がってきたエルノアの頭を撫で薄気味悪く笑う。


「お前も、殿下のことは言えた口ではないだろう。近頃若い男との夜遊びが過ぎるそうじゃないか。あまり私に恥をかかせないでくれ」


 フレイザーがエルノアに耳打ちをすると、彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。


「それに、次にこのふたりが顔を合わせるときは、それぞれの婚約者とともに挨拶をすることになるだろうからな」


 妹の頭をフレイザーが優しく撫でると、エルノアはぱっと表情を咲かせた。