王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「私がお送り致しましょう。私であればご両親も安心なさるはずだ」


 したり顔で言うフレイザーの申し出は、悔しいけれど正当だと思う。

 けれど、マリーはフレイザーと共に帰宅することはどうしても嫌だった。

 フレイザーが怖くて仕方ないし、それにフレイザーとの間柄を親密なものだと勘違いされてしまっては、帰宅後そのまま結婚の話を早急に進められかねない。
 

「俺が連れて行く」


 それをわかってくれているかのように、ウィルはマリーを優しく見つめてくれる。


「残念ながら、俺がイベール家に顔を出すと、君の体裁が悪くなってしまう。けれど、ミケルだけを屋敷に通せば大丈夫だろう。
 こう見えても彼は騎士団長を務める人間だ。道に迷った所を保護されたと話せば問題ない。ただ君がご両親に叱られてしまうのは免れないかもしれないが」

「ううん、そのくらい私は平気。でも……ウィル、この前はごめんなさい。エレンがあんなこと言ってしまって……そのことも、ずっと謝りたかったの」


 自分のせいで、ウィルの立場は褒められるものではなくなってしまった。

 それなのに、ウィルは気を悪くするどころか、マリーの方を気遣ってくれる。