王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 マリーの不自然な態度に気を悪くするでもなく、ウィルは優し気な眼差しで見つめ返してくれる。

 彼の心の広さにマリーはますます魅せられ、胸がきゅうと音を立てて啼いた。


「手当が済んだら、屋敷まで送ろう」

「まさか、お前が送るつもりかウィリアム」


 ウィルの気づかいに横やりを入れてくるのは、フレイザーだ。


「どこの馬の骨ともわからぬ輩が、大事な娘を傷だらけで帰すとなると、信用を得るどころか二度と近寄るなと払われるだけだぞ。それとも"王太子"の名を明かし、権力を振りかざしてひざまずかせるか?」


 ただウィルは優しさを見せてくれているだけなのに、揚げ足でも取るようなフレイザーの言動。

 迷惑をかけているのはマリーの方で、ウィルが何か悪いことをしたわけではない。

 彼を悪く仕立てるようなフレイザーの言い方を、マリーは不快に思った。


「フレイザー様……大丈夫でございます。私はひとりで帰れます」

「まさか、もう陽は沈みかけている。街を出て間もなくすれば辺りは闇に沈むだろう。そんな中をひとりで歩かせられるわけがない」


 フレイザーの言う通りだ。

 一度通った道を引き返すことは出来ると思うが、その道中は来た時の明るい時間ではないのだ。