王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 マリーを支えながら、ウィルは顔も上げずに口を開く。


「見ての通りだ。あとはこちらに任せ、貴様は妹を連れて引き上げろ」

「そうはいかないな。未来の花嫁が傷を負っているのを黙って見過ごすわけにはいかないだろう」


 いかにもマリーが自分のものになるかのような口ぶりに、ウィルは睨むような視線をフレイザーに向けた。
 

「馬車が見当たらないようだが。その上その足、まさかここまで歩いてきたのか」


 驚きと感心した声を上げたフレイザーもまた、マリーの様子を察するのは容易いようだった。

 返事どころかまだ挨拶も出来ていないマリー。

 フレイザーの存在には恐怖と絶望しか感じず震えるマリーを、ウィルが温かさで包むようにそっと覗き込んでくる。


「大丈夫か? 痛むのか?」


 塗られた薬が少し沁みたけれど、優しい声音に怯えていた胸はほっと安堵に包まれた。


「う、うん、平気……です」


 今までのように、砕けた言葉遣いをしていいものかどうかわからず答えるも、そういう自分の態度がウィルを傷つけてしまうのではないかとマリーは彼の様子をちらとうかがった。