王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 見るからに年上のミケルを側近だという彼は、やはり王太子なのだ。

 それでも、見上げたサファイアの瞳は、マリーのよく知る“ウィル”のもの。

 その瞳からはマリーを大切に想う彼の慈しみが感じられ、これまでマリーの元へ来てくれていた理由は、容易にうかがえた。

 王太子だからというだけで、一瞬でも気が引けてしまった自分を恥ずかしく思う。

 ウィルは、マリーにこんなふうに思われることを見越して、身分を明かさなかったのだろうと察せるのに。

 そんな彼の想いに胸がつまり、苦しいほどに大きく鼓動を鳴らした。

 マリーは靴を脱ぎ、ウィルを支えにしてそろそろと足を差し出す。

 柔らかなクッションに足を乗せると、ミケルが冷たい布巾で滲む血を優しく拭ってくれた。


「マリーアンジュ嬢、どうなさったのだ。傷だらけではないですか」


 手当を受けるマリーに影を作り、フレイザーが様子をうかがってきた。

 心配するような物言いだけれど、その表情には何の感情も込められてはいない。