王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「私は、バークレー国の第一王子、ウィリアム・ヴィンセント・バークレー。王位継承権を持つ王太子だ。
 ……ずっと、隠していてすまなかった、マリーアンジュ」


 ウィルの瞳はいつものように綺麗なのに、一瞬でとても遠い星のような手の届かない距離を感じた。

 フレイザーやミケルに対しての態度も、エルノアとの婚姻話の理由も、すべて合点がいった。

 伯爵家の人間といえど、とても一般庶民なんかが関わりを持てるはずもない高貴な方。

 そんな身分のウィルが、なぜ自分の元へ何年も通ってくれていたのか。

 それだけがマリーにはわからなかった。


「あんな片田舎の伯爵家に、貴方様のような方が、いらして……」

「マリー……」


 急によそよそしさを出したマリーを、ウィルは悲しげに呼ぶ。

 その悲しさを引き出しているのは自分のせいなのだと、マリーは自分を責めた。

 恐れ多い相手に、自分は今までとんでもない無礼の数々を働いてきたのだ。

 顧みるだけでは到底足りそうにない罪に、マリーが引いてしまうのもしかたのないことだった。