いつ見ても底のないような瞳の暗さに、マリーは身体を震わせる。
力づくで押さえ付けられた恐怖を思い出し、抱き寄せてくれるウィルの温かさにわずかに身を寄せた。
「あら、お兄様ご存じなの?」
「ああ。お前にはまだ話していなかったが、彼女は近々お前の義姉になる方だ。
イベール伯爵家の令嬢マリーアンジュだよ。エルノア、仲良くしなさい」
驚くエルノアの他は、苦虫を噛んだように押し黙る。
もちろんマリーは、やはりそうなのかと愕然としたけれど、ウィルとミケルはまるでそれを知っていたかのように驚くことはしなかった。
「マリーアンジュ、殿下との戯れならそのくらいにしておかれた方がいい」
気味が悪いほどに柔らかな物腰のフレイザーは、またしてもウィルのことを“殿下”と呼ぶ。
“殿下”とは、王族の人間に対する敬称だ。
今自分を温かな掌で抱き寄せてくれている彼を恐る恐る見上げて、マリーはか細く呟いた。
「ウィル……? 貴方は、"殿下"……なの?」
彼にだけしか届かない声に、ゆっくりと向き直ってくるサファイアの瞳。
いつだってマリーを優しく見つめてくれる彼は、凛と澄んだ声でそっとそれを告げた。
力づくで押さえ付けられた恐怖を思い出し、抱き寄せてくれるウィルの温かさにわずかに身を寄せた。
「あら、お兄様ご存じなの?」
「ああ。お前にはまだ話していなかったが、彼女は近々お前の義姉になる方だ。
イベール伯爵家の令嬢マリーアンジュだよ。エルノア、仲良くしなさい」
驚くエルノアの他は、苦虫を噛んだように押し黙る。
もちろんマリーは、やはりそうなのかと愕然としたけれど、ウィルとミケルはまるでそれを知っていたかのように驚くことはしなかった。
「マリーアンジュ、殿下との戯れならそのくらいにしておかれた方がいい」
気味が悪いほどに柔らかな物腰のフレイザーは、またしてもウィルのことを“殿下”と呼ぶ。
“殿下”とは、王族の人間に対する敬称だ。
今自分を温かな掌で抱き寄せてくれている彼を恐る恐る見上げて、マリーはか細く呟いた。
「ウィル……? 貴方は、"殿下"……なの?」
彼にだけしか届かない声に、ゆっくりと向き直ってくるサファイアの瞳。
いつだってマリーを優しく見つめてくれる彼は、凛と澄んだ声でそっとそれを告げた。
