王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「エルノアがここにいると聞いて来てみたんだが。
 こんな所で騒いでは、殿下に迷惑だと言っただろう」

「でも、だって……わたくし、ウィリアムと親しくなろうと必死で……」


 ……殿、下……?


 フレイザーが何気なく放った言葉を、マリーはあまり働かない頭の中で反芻する。


「フレイザー……ッ」


 忌々し気にフレイザーの名を奥歯で噛みしめるウィル。

 大公爵であるフレイザーを敬称なく呼びつける彼の素性は、マリーににわかには信じられない推測をさせた。


「それにね、あの女がウィリアムに色目を使ってるみたいなのよ? 身分をわきまえていないわ、あの小汚い娘」


 自分の話をされているのだとわかりエルノアへと視線を移すと、彼女は見るのも汚らわしいような目つきでマリーを見ていた。

 フレイザーもまたエルノアに続き暗黒の瞳を向けてくる。


「ああ、これは、マリーアンジュ嬢ではないですか。どうしてこんなところに」


 藍色のフードを被っていても、マリーの特徴である金の髪が覗き、容易くマリーだと気づいたフレイザーはふっと目元を綻ばせた。