王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「ウィリアム!」


 見つめ合うふたりへ声を荒らげるエルノア。

 ふたりでそちらに顔を上げると、彼女の向こうからミケルが戻って来ていた。

 赤々としてきた夕陽の眩さに目をしかめると、ミケルの背後にもうひとつ別の人影があるのを見つけた。

 黒馬に乗るその人物が近づき、眩しさの中から姿を現すと、寄り添い合うふたりは呼吸を忘れるほど驚いた。

 「ウィリアム様」と低い声で呼びかけてきたミケルの表情は険しい。

 そんなミケルに、エルノアはキッと鋭い視線の矛先を変える。


「ミケル! 貴方も知っていたの!? この小娘のこと!」


 尖った声を思い切り吐いたところで、振り返ったエルノアはひしと固まってしまった。


「エルノア、どうした。大公爵家の令嬢がそんなに大きな声を出して、はしたないぞ」
 

 上から降ってくる落ち着いた低い声に、そこにいる全員がそちらに注目を集める。