王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 ウィルへの迷惑も顧みずに、ここまでただ自分の想いのままにやって来てしまった。

 嫉妬なんて抱いたところで、エルノアに対抗できるものなんてマリーにある気はしなかった。


「ウィル、ごめんなさい……私、帰ります。今日は、会えてよかった」


 エルノアの立場を思い、マリーはウィルから離れようとする。

 これ以上ここにいても、この先の未来彼のそばにいられるわけではない。

 近いうちにアンダーソン家へ嫁ぐことになるのだから、ウィルを想うエルノアをむやみに傷つける必要はないのだ。

 それなのに、ウィルはマリーを見つめ柔らかく目を細めた。


「このままひとりで帰すわけがないだろう」

「ウィル……」

「君はとても素敵なレディだ。帰りに襲われでもしたらどうする」


 ウィルには迷惑をかけているはずなのに、咎めるどころかエルノアの棘のある言葉をさりげなく払ってくれる。

 マリーを離そうとはしない強い掌に、ときめきで胸が一層苦しくなった。