王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「そんなこと、今さら誰も受け入れるはずがないわ!」

「先日ようやく君の兄上に打ち明けたばかりだ。話はこれから進めていく」


 エルノアは、家族ぐるみの関係でもあるらしい。

 マリーの知らないところでウィルと繋がりのある彼女に、かすかな羨望を覚える。

 その気持ちとともに胸に広がる苦々しい感情。

 彼女に対して抱くもやもやとしたものが、嫉妬であることにマリーは気がついた。

 けれど、顔を真っ赤にして震えるエルノアの気持ちがひしひしと伝わり、胸が締めつけられるほど切なくなる。

 エルノアの瞳に滲む涙を見て、そこに自分がもらった幸せの代償があるのだと、マリーは人生で初めて知ることになった。


「なんなの……? どこから湧いてきたのよ、その小娘は」


 潤んでいたエルノアの瞳には、いつの間にかマリーに対する怒りと憎悪が激しく揺れている。


「そんなみすぼらしいドレスなんて着て。ウィリアムに釣り合うとでも思っているの!?」


 エルノアの言う通りだとマリーは思った。

 彼女のように凛とした淑女の様相なんて、今のマリーには少しもありはしない。