王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 彼の腕に抱かれる自分への嫉妬の炎が、彼女の目に燃えているのがわかる。

 エルノアはウィルのことが好きなのかもしれない。

 罪悪感に駆られ、ウィルから離れようとするマリー。

 それを許さない彼の腕にさらに強く抱き寄せられ、胸がどきりとわなないた。


「この子は俺の大切な人だ」


 エルノアの感情の高ぶりとは対照的に、ウィルは冷静な声音ではっきりと告げる。

 堂々と口にされた言葉に、マリーは焦りを覚えてウィルを見上げるも、悠然と構える横顔に素直に胸はときめいた。


「何を言っているの……!? 一体どういうつもり!?」

「周りもそれが当然のように振舞ってきたから、君までもがそう思っていても仕方のないことだ。でも、すまないが、俺は君と結婚する気はない」

「は……、何なの……」


 突然出てきた『結婚』という言葉に、マリーは衝撃を受ける。

 ウィルにはすでに、将来を考えさせられる相手がいた。

 親しげな様子を見れば、昨日今日で知り合ったのではないことはわかる。


 ……まさか結婚の話が持ち上がるほどの方だったなんてーー。


 マリーはあまりに突然の事実に混乱し、胸が苦しくなった。