王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「だけど……」


 怒っていると言うわりに、続くウィルの声はいつも以上に甘やかに変わる。


「危険を冒すことよりも、俺に会いたいという思いが先立っていたなんて……こんな罰当たりな嬉しさなんて、初めてだ」


 自分を抱き寄せる掌の力強さと、サファイアの瞳に揺れるウィルの熱意を感じて、マリーの鼓動は大きく拍を打つ。

 ふっと口元をほころばせるウィルに、自分のとった行動を反省しながらも、マリーは彼に会えてよかったと思った。


「ウィリアム、誰なのその女は」


 温かく幸せな空気を一蹴したのは、怒気を孕んだ尖り声。

 ときめいていた鼓動がどきりと飛び上がり、ウィルに守られながら見やった先では、エルノアが従者の差す日傘の下で目を吊り上げていた。


「貴方、今何をしていたの……?」


 ふるふるとバスケットを持つ手を震わせるエルノアに、マリーは彼女を怒らせているのは自分のせいだと察する。