王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 逸らされた視線にほんの少し寂しさを感じたけれど、辺りを見回すウィルの端整な顔に、彼に恋するマリーは下から見惚れる。

 たくましい腕に抱きしめられていて、胸はときめきに鼓動しっぱなしだ。


「マリー」

「……うん?」


 安堵に包まれるマリーはほうと頬を染めたまま生返事をする。

 す、と戻ってきた凛々しい表情に、心臓がひとつ脈を乱した。


「馬車はどこ?」

「……馬車?」

「ここまで乗ってきた馬車だよ。ご両親は? 一緒に来ているのか?」


 言われて、マリーは瞬く。

 両親どころか、馬車もありはしない。


「いえ、いないわ。……歩いて、来たの」


 マリーが何を言ったのかわからなかったのだろう。

 少し間を置いてから、ウィルは小さく「え」と口の中で呟いた。

 一瞬だけ動きを止めた彼は、そろそろとマリーの足元を見て目を見開いた。