王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 エルノアも言われていた。

 ウィルは、学舎へ来ることをあまり快く思っていないようだった。

 
 そんなことも知らずにのこのことやって来るなんて、迷惑だったに違いないわ……。


 いろんな負の思考がマリーの心を追い詰める。

 痛みを感じているのは、押し潰されそうになっている心だと気づいた。

 瞳に涙がじわりと滲んできたとき、逃げるマリーの腕を何かが強く引っ張った。

 細い腕を掴んだのは、力強い掌。

 小さな身体をぐっと引き寄せるほどの強さだったのに、痛みは感じなかった。


「マリー……!」


 澄んだ声が馴染みのある呼び方でマリーを呼ぶ。

 振り向かされた先では、マリーの知っている革の胸当てが視界をいっぱいに覆ってきた。