曲がり角まで来たところで、塀に沿って隠れるように一台の馬車が悠然と停まっていた。

 どう見てもマリーの屋敷にあるものよりも、豪奢な造りをしている。

 あまりに仰々しい雰囲気を醸すその横を、歩みを緩めてそろそろと離れて避けていこうとする。

 すると、御者台から降りてきた従者らしき人が馬車の扉を開け、中からひとりの女性が出てきた。


「足元にお気をつけくださいませ」

「相変わらず埃っぽいわね、この辺りは」


 口にハンカチを当てる若い女性は、レースのついた日傘を持った従者の手を取り、綺麗な顔をしかめて降り立った。

 丁寧に巻かれた明るい栗色の髪が、つばの広い帽子から覗き肩にかかっている。

 レースの手袋をした手には、スカーフを被せた小ぶりのバスケットが持たれていた。


「そろそろ出てくるころかしら」

「はい、間もなくかと」


 返答を最後まで聞かない女性は、従者の差す日傘を気にすることなく先に歩いていく。

 彼女が醸す雰囲気は、アンダーソン家の社交パーティで見た貴婦人のようなとても品位高い印象を受けた。