「とんでもございません。フレイザー様も、たまには剣を振られてはどうですか。お相手いたしますよ?」

「いいや、遠慮しておくよ。そのままうっかり命を奪われかねない」


 殺気立つミケルを、フレイザーは軽く笑いながら飄々とかわした。


「それでは失敬するよ。これから大事な用があるからな」


 何かを含んだような言い草を残して、フレイザーは部屋を後にした。


「大丈夫ですか、ウィリアム様」

「ああ、油断してしまったがな。フレイザーの言う通り、俺もまだまだだ」

「そんなことはございません。ご自身より体格の大きい相手を振りほどけるほどのお力は、きちんと身につけておられるようで、ミケルも感心いたしました」


 日々の鍛錬は着実に血肉になっていたかと、成人を目前にしてわずかな自信を付ける。

 しかし、逆を言えば、自分は今何の権限も持たない子どもだ。

 愛する少女を目の前で攫われようとしているのに、指を咥えて見ていることしかできないのかと、焦りが募る。