「志織、明日の北海道中止な」

「え、やだ」
驚いて顔を上げた。

「いや、ダメだ。こんな様子で出すわけにいかない」
洋兄ちゃんは首を横に振る。
「わかるだろ?」

それはそうなんだけど…。
「でも、ここに…この辺りにいるのも辛いの」

洋兄ちゃんはじっと私を見つめる。
「わかった。でも、とりあえず明日の出発は中止。それは譲れない。いい?」

「うん。わかった。いつならいい?」

「少し考えさせて。志織の体調もあるし」
そう言って私の頭を撫でた。

「とりあえず、甘えてな」

私は洋兄ちゃんに抱き付いた。

「ね、今日泊まってもいい?」

「何だよ、志織は帰るつもりだったの?」

「え、そうだよ。だって泊まったら洋兄ちゃんの彼女とか好きな人とか将来の奥さんに悪いし」

「は?今さら何を言ってるんだよ。彼女はいないって言ったろ。それに志織より大事な子はいない。志織はここにいろ。いつまでだっていいんだぞ」

そうしてまた頭を撫でてくれた。

「洋兄ちゃん、ありがと」

「落ち着いたらシャワー浴びておいで。着替えは適当に出しておくから」

「うん。でも、もうちょっとだけ」
洋兄ちゃんにだけは素直に甘えられる。
私は洋兄ちゃんの背中に回した腕に力を入れて胸に顔をすりすりとこすり付けた。
洋兄ちゃんの匂いだ。何だかとても気持ちがいい。

「大きなネコだな」くすくすとわらいながら背中をさすり頭を撫でてくれた。



シャワーを浴びて出てくると洋兄ちゃんがパソコンに向かっていた。

「ごめんね、仕事があったんでしょ?」

「いや、仕事じゃない。心配するなって」

洋兄ちゃんにもお風呂に行ってもらう。その間私は録画してあったテレビ番組を観ているように言われた。

「テレビ観てる気分じゃない」と言う私に「まぁいいから」ってテレビを付けた。

『世界の不思議な遺跡、天空から海底まで。新発見?!』
というなんとも怪しげなタイトルの番組だ。

「洋兄ちゃん、これっ」私は興奮し始めた。
「志織の好きそうな番組でしょ」と笑った。
そうなの。学術的な遺跡の番組だけじゃなくて胡散臭い古代ロマンを煽るような番組も大好きなのだ。

「みる」もう画面に釘付けになった。
「そう言うと思ったよ」ふっと笑って洋兄ちゃんはバスルームに行った。