あなたしか見えないわけじゃない

翌日の勤務後にいつものように彼の部屋に向かい、夕食を作って彼の帰りを待った。

いつものように水槽の前のソファーに座りぼーっと小さな海を眺める。
今年の夏休みはどこかに行けるだろうか。
去年は2人で宮古島に行った。
今年は大学病院に戻るみたいだし無理かな…。

……いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
時刻は23時半。
スマホを確認するけど、連絡もない。
患者さんが急変したか、救急で何か入ったか。
連絡ができないなんて日常茶飯事。
いつも心配だけど、気にしてたらドクターの彼女なんてやってられない。
ひたすら待つしかない。

でも、今夜は話がしたかったな。

遅くなっても一緒に食べようと思って、自分も夕食を食べていなかった。
でも、何となくお腹も空かない。

そのままソファーでぼーっと水槽を眺めていると玄関で物音がした。
帰ってきた!

「お帰りなさい!」
玄関ドアまで走っていく。

「あ、あれ?藤野。来てたの」
彼からアルコールの匂いがした。

「う…うん。行くって連絡しといたけど」

「そっか。忘れてた」

私と目を合わせることなく部屋の奥に向かう。

ジャケットを脱いで、ミネラルウォーターを取りに冷蔵庫に向かってキッチンのお鍋や食器に気付いたらしい。

「ごめん、夕飯食べてきた」
まだ私に視線を合わせない。

「いいよ」
そう言ったけど、なんだろう。この違和感。

「シャワー浴びてくる」
ミネラルウォーターをゴクゴクと飲んで浴室に行ってしまった。

彼がシャワーから出てくる前にキッチンを片づける。
食欲は何もなかった。
今日、ここに来てはいけなかったのかな。
今日も転勤の話はしないつもりなのかな。
ぐるぐると私の頭の中に疑問符が回っていた。

私の葛藤に気が付かないのかシャワー済ませた彼はすぐに寝てしまった。

私がベッドに向かうと彼は真ん中に寝ていて、いつもの私のための右側は空いていなかった。

わざとじゃない。たぶん。
でも、そんなことにすら傷ついてしまう自分がいる。
私って何だろう。